看護・高齢者ケアプログラム体験談・視察レポート
『ハワイのクリニックでシャドウィング』でおなじみのSt. Luke’s Clinicの院長、小林恵一先生がお届けするエッセイが届きました。
ハワイ雑感は、先生のユーモアあふれるセンスで見たハワイ在住の日本人について徒然なるままにご執筆いただきました。
日本人と日系人
早いものでアメリカに住んで26年、日本でもアメリカ海軍などで研修していたため、アメリカの社会に随分長く居ることになる。そこで出てくるのが アイデンティティの問題、つまり自分は何者であるのかという自己認識の問題だ。もっともこの問題で真剣に悩むのは若い間で、中年以降は、”自分とは何か? そんな事はどうでもいいから、早くメシ!” となる。
アメリカに長く住んだ事のある人なら分かるのだが、アメリカではそんなに英語が出来なくても実は やっていける。一言、意味のある事を言いかけると、あとはモゴモゴ言っても相手が”忖度”してくれるのだ。アメリカは移民の国で 英語が出来ない人間がゴマンと社会にいる。皆、下手な英語に慣れている、否、慣れすぎだ。そこできっちり英語ではじめっから終わりまで喋らなくても、なんとなくいけてしまう。まあ、その点、アメリカはいい国なのだが、これでは英語は上達しない。幼稚な英語のまま人生を歩くことになり、段々、英語は退化していく。
でも大丈夫、日本語がある、と考えるなら甘い。アメリカの社会で日本語を書く事はほとんどないため、日本語は退化していく。まず、漢字が書けなくなる。難しい四字熟語も忘れる。
という事は 日本人がアメリカに住むと、よっぽど根性を入れない限り英語も日本語もできない人間になってしまう。その頃には痴呆も始まり踏んだり蹴ったりだ。
ハワイに住んでみて、はじめは日系人なる不思議な存在に驚いた。日本人なのに日本語ができない。その頃はこちらは英語が出来ないから、問題は単純だ。奴らは日系人、こちらは日本人、そういう分け方になる。ところが、長年ハワイに住むと 事はそんなに単純ではなくなる。そもそも日本人とは何か。日本語を話し、日本の文化を持っている人間の事だ。日本の社会は アメリカと違って厳しいからちょっとでも日本人の標準からずれるといじめや社会的制裁で変なところを治そうとする。木に例えると、変な伸び方をした枝は刈られるのだ。 日本から出てきたばかりの日本人は日本の文化そのものだ。
ところが、アメリカの社会は文化的に同一性を求める事をしない。”個性を尊重” するのだ。かくして、日本人はアメリカに来ると個性の枝は伸び放題になる。こんな人間を日本に持ち帰っても、今更きつい日本の社会に入りきらない。私なんざは ギリギリ今帰ればまだ戻れるボーダーライン上だろう。この頃になると、日本語も怪しくなり、英語も上手にごまかせるようになる。じゃあ、日系人とどこが違うんだ?
かくしてハワイに住んでいると、段々変になっていく。皆さんもお気をつけあれ。