看護・高齢者ケアプログラム体験談・視察レポート
2024年11月23日(土)~12月2日(月)8泊10日間
『スウェーデン介護・看護体験』
に参加の看護師 古山陽菜(フルヤマ ハルナ) さん
実習先の施設の外観です
スウェーデンに行くと決めたのは突然で、「自分を変えたい」と思ったからです。もともと祖母がアルツハイマー型認知症であったことをきっかけに看護師を目指し、5年ほど急性期病院で働きました。今はもう祖母は近くにいませんが、今後は認知症看護認定看護師の資格を取りたいと考えていました。
そんな日々のなかで自分を変えたいと思ったきっかけは、母が「私がぼけたら施設に放り込んでね」と冗談交じりに言ったことからです。家族に負担をかけまいというつもりの些細なひとことだったと思います。家族には最後まで幸せに過ごしてほしいと思っているのに、働いて5年経っても認知症ケアは難しく、正解がわかりませんでした。とにかく価値観を広げたいと思いました。
そこから安直に「認知症 海外」と調べ、認知症介護の先進国はスウェーデンと出てきたことからスウェーデンについて調べ始め、何十年も前に今の日本のような超高齢社会であったことを知りました。今では「寝たきりがいない」と言われており、スウェーデンのケアを実際に見学できるところはないかと調べ、ここにたどり着いたわけです。
実習に行くぞと決めてからは、日程を決め、英語の勉強をし、あっという間に実習の日になったことを覚えてます。わくわくというよりは、本当に行けるんだという実感のなさと不安でいっぱいでした。
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11月の終わりでしたが現地はそれほど寒くなく、安心したのを覚えています。実習の初日は社会福祉の講義を受け、二日目から五日目までは実習施設に行って施設の准看護師さんに同行し、利用者さんと話したり、ケアを手伝ったり、申し送りやミーティングを見学することができました。
スウェーデンの福祉のシステムは日本とは異なるため、一度施設に入所したら亡くなるまでそこで生活をするケースが多いとのことでしたが、実習先の施設は自宅だけでなく他の施設で生活できなかった重度の認知症を持った方も集まっていると聞いていました。
覚悟して訪れてみると、意思表示がうまくできない人も自分のしたいことをし、自分では動けない方も機械を使って一度はトイレに座り、昼食はみんなそろって食べるなど、いわゆる普通の生活をしていました。利用者さんと話たり、観察をしていると認知症らしい症状を理解することができましたが、それでいてもなおとても自由でした。
見学をしている際に、ある利用者さんが大きくふらつきながら歩きだすことがありました。准看護師さんは近くにいましたが、背を向けて作業をしており、おもわず利用者さんの側に駆け寄り、脇を支えようとしました。その時に「止めなくていいよ、その人がどう過ごすのかは自由。大丈夫だよ」とその准看護師さんが教えてくれました。こんなにふらついていたのに大丈夫なのかと側で見守っていましたが、利用者さんは小刻みな歩行でもゆっくりと進み、リビングルームのいつもの椅子に一人で座ることができました。しかし、それまでにはその方にあった靴を履いてもらう介助をし、廊下にあった無駄なものをなくし、椅子も座りやすいように整えていました。准看護師さんは「ずっと見てなくても、音を聞いて、何をしているかを感じるんだよ。」と話してくれ、その方のできない部分のみを介助できるよう環境を整え、自由に過ごせるように五感を使ってケアをしているのだと実感しました。また准看護師さんがそれらを理解して行っていることにとても意味があると感じました。利用者さん自身が考え、選び、生活をする権利を奪わない関わりを、意図的に行っていることが、最後まで自分の意志で自由に生活をしていける環境の土台になっているように思えました。
実習先でいただいたお昼ごはん♡
また、寝たきりの方がいないというのはこの施設においては本当で、自力で動くことのできない利用者さんが2名いらっしゃいましたが、必ず一日に一度は車いすに乗車していました。食事も施設内で作られましたが、みんなと同じものを、その方の嚥下機能に応じてミキサーにかけられていました。「食事は目で見ても食べるから」とサラダはサラダ、主食は主食と混ぜずに刻まれる工夫も共有されていました。他の施設には経管栄養をしている方もいるようでしたが、日本と比べるとかなり少ないです。施設職員に聞くと、「経管栄養は可哀そうだ」という認識が広く一般的でした。急性期治療においては代替栄養で栄養状態を立て直すことで元の生活に近づけるということもあり、それらが一概に悪いとは思いませんが、一時的であるかどうかやその人が本当に望むかどうかを考える必要があると常々思っていました。スウェーデンでは口から食べることや普通の生活をすることに重きを置いているのだと感じ、そのためにも医療職者がその人にとって本当に良い選択なのかを判断する責任を持っているようにも思えました。
フィーカ
(スウェーデン式コーヒーブレイク)
また、実習をしていてとても印象的だったのは、施設の職員がとてもリラックスして過ごしていたことです。みんなと一緒に食事を取ったり、フィーカでコーヒーを飲んだり、テレビを見て笑ったりとまるで家族で、一緒に生活をしているように見えました。
利用者さんにはカルテのようなものがあり、その中には人生歴史としてどのように生活してきたか、家族や仕事の情報だけでなく、何が好きか、嫌いかなどを書いたものがありました。入居時に本人や家族が記載するとのことです。同行中にもその利用者さんのことを教えてくれることがよくありました。家族の考えていることがだいたいわかるように、人生の歴史を踏まえ、一緒に生活をすることで家族に近い存在になれ、言葉にはしなくても利用者さんの考えていることや感情を理解できるようになるのかもしれないと思いました。
それでも認知症のBPSDという症状で利用者さんが怒りっぽくなり、対応に困る場面もありました。重度の認知症とだけあって完全にその症状をコントロールすることは難しそうでしたが、職員同士でなぜこうなっているのか、どうしたらよさそうかと話し合い、考え、悩んでいました。そのケアの方法が正しいかどうかを評価することは難しいですが、分かりやすい万能な認知症ケアは存在しないのだと実感しました。どこにでも課題はあり、そこで話し合う過程や方法を試す過程でその人に合ったケアを見つけることができるのだとわかりました。
言語の壁は大きく、実習中も翻訳機を使用しながらではありましたが、多くの学びを得ることができました。毎日起きたら歯を磨き、顔を拭き、デオドラントを脇につけ(これは文化なのでしょうか(笑))、服を着替え、自分の力で歩き、口からごはんを食べる、こんな当たり前の、普通の生活を最後まで支援することの重要さに気づけた気がしました。
私はこの実習を通してもまだまだ自分の中での認知症ケアの正解を見つけることができていませんが、いつかこの経験が活きてくると信じています。この実習を受けるか悩んでいる方は、ぜひ参加してみてください。きっと自分の心の中にある大切にしたいことに気づけると思います。
地下鉄アート壮大です。
スウェーデンでこんな体験ができたのは、エミールさんをはじめとしたSQCの方々やトラベル・パートナーズの皆さんの今まで施設の方と築いてきた信頼のおかげです。私一人ではどんなに実習施設を見学したいと希望しても実現することができません。その上、現地でも手厚くサポートをしていただき、最後まで楽しく過ごすことができました。感謝してもしきれません。本当にありがとうございました。施設の職員の方、利用者さんも親切にしていただき、ありがとうございました。とてもとても楽しかったです。いつか年をとっても、忘れたくない思い出でになりました。またお会いしたいです。ありがとうございました。